「希望の復活」              2019年8月18日 

        永山辰原神学生(ボン大学神学部留学中) 

 

 ルカ26:19~31 招きの詞ローマ書6:1~5

 

これまでの日本の政治では、国民全体のための政治ではなく、特定の特権を持った人達、力を持った人達のための政治だったと言えると思います。そして、選挙の度に繰り広げられたことは、そのような民衆の政治とは真逆の政治を行っていながら、自画自賛する、自己を正当化することであったと思います。正当化とは、実際起きていないことを、あたかも起きているかのように主張し、事実と違う成果を強調することです。聖書においても同様の自己正当化が行われています。旧約聖書を見ると、イスラエルの民の神への反逆と共に、自分たちを正当化する様が描かれています。新約聖書においても、ファリサイ派などのユダヤ教特権階級による自己正当化の様子が描かれております。しかし、私たちも同様に自分を正当化することがままあります。今日の安倍政権や、聖書に出て来るファリサイ派の姿は、決して私たちと無縁ではない、むしろ、私たちの姿を描いていると言えます。

 

今日の箇所は、少なくとも4つの解釈の可能性があると思います。ひとつめは、イエス様は、金持ちは天国に行くのは難しいと言っているという解釈です。しかし、この解釈は直ちに違うと言わざるを得ません。金持ちが天国に入るのは難しいとは比喩であり、額面通り解釈すべきではありません。 では、ここでイエス様がおっしゃりたいのは、天国に行く人と地獄に行く人は予め決まっているという解釈が挙げられます。キリスト教会は伝統的にこのような解釈をしてきたからです。それで言うと、ラザロは予め天国に行くことが決まっていた、そして金持ちは同様に地獄行きが決まっていた。私たちはこのような解釈に疑問を呈するかもしれませんが、実はこのような予定論的な思想は私たちの中に根強くあります。

 

しかし、このような解釈は正しくはありません。なぜなら、28節以降の金持ちとアブラハムの問答を見ていると、どうも救いが予め決まっているとは到底思えないからです。そうすると、次の解釈の可能性が浮上します。それは、因果応報の解釈の可能性です。金持ちが地獄に行ったのは、ラザロを憐れんで助けなかったからであると。もし、この解釈が正しいとすれば、今日の箇所が私たちに伝えようとすることは、弱者を助けなければならないこと、隣人を愛するべきであること、立場や地位で人を判断しないこと、このような倫理的な訓戒として読むことができるからです。

 

しかし、私はこの解釈も違うと思います。なぜなら、もしこの解釈が正しいとすれば、25節でアブラハムは助けなかったことに言及するはずです。では、どのような解釈がふさわしいでしょうか。イエス様から言わせれば、ファリサイ派の人達はユダヤ教の特権階級であり、その権限をフルに活用する形で律法を解釈していました。そしてその際、罪人とされた人々に目もくれませんでした。それはまるで、今日の箇所に出て来る金持ちと全く重なるのです。つまり彼らがやっているのは自己正当化であります。その一方、イエス様は、罪人とされた人達、社会の弱者と言われる人達、悲しみの中にある人達、悪いものをもらっている人達、絶望の中にある人達には、希望があると言っています。それがまさにアブラハムとの宴席です。ですから今日の箇所でイエスさまが言いたいことは、私たちに自己正当化するな、そして希望を持て、この二つのことを言っているのであります。

 

今日の私たちの世界では自己正当化が蔓延っています。しかし、同時に私たち自身も、常に自己正当化する者であることを忘れてはなりません。また一方で、もし私たちが困窮の中にあるなら、絶望の中にあるなら、イエス様はそんな私たちに対して希望があるとおっしゃっています。では、ここでイエス様の言う希望とは何でしょうか。その答えは今日の箇所の最後に記されています。「死者の中から生き返る者」。「死者の中から生き返った者」は未だかつてひとりしかいません。私たちが復活のイエス・キリストに耳を傾ける時、またそれに従う時、私たちは自己正当化の呪縛から解かれます。そして同時に、希望が与えられる。

 

ではなぜ、イエス様の復活が希望となるのでしょうか。イエス様の復活というのは、ただ単に死人が復活したという在り得ない現象、奇跡を象徴しているのではありません。そうではなくて、この世界に神が直接関与されている、神が私たちと共におられる、これがイエス・キリストの復活の本来的な意味です。まず私たちは神の前で遜り、悔い改め、神を求めなければなりません。なぜなら、神に拠り頼まない、神を求めない、これが最大の自己正当化だからです。そして同時に希望を持ちましょう。もうすでに、神が私たちの世界に関わってくださっているのですから。